今、岩手県盛岡にいます。2月の終わりに1週間、そして3月頭から約1ヶ月の予定で盛岡にいます。岩手在住のアーティストと、岩手出身のアーティストと、そして東京から参加するアーティストと「アンソロジー宮澤賢治 イーハトーヴォ発 『ジョバンニの切符』」という舞台作品を作っています。
3月11日、暴風雨の中、出演者とともに陸前高田に行きました。8年前の震災で津波による被害が最も大きかった町です。その町のお寺の住職さん、家族の人を失った方、子どもにピアノを教えるピアノ教室の先生の3人からお話しを伺いました。町の中心部の大半は土で嵩上げされており、建物はあまり建っておらず、10メートルの防波堤の先に海の姿は見えませんでした。人の姿よりも嵩上げされた何もない土地と、その土地の上にある数十台の工事車両ばかりと言った印象でした。
お寺の檀家さんの火葬された方のリストは300名を超えていました。それは300名という集団の人数ではなく、300名という子どもから老人までの個人の人数でした。
母、妻、娘を亡くされたその方は、話しの中でその3人を主語で言うことはありませんでした。家族以外の誰かの話しをされる時、例えば思わずシャッターを切らざろう得なかった、流される屋根の上にいる人や、市役所の螺旋階段を登る時に階下で流される二人の同僚の方や、市役所から部署の変更で、結果、津波に流されてしまった市民会館に配置された同僚や、避難場所に指定された体育館で生き残った2人の方の話しをされるとき、主語はあるのですが、失った家族の話しをされるときに、それが誰なのかと言う主語を決して口にすることはありませんでした。
ピアノ教室の先生は、ある子どもがピアノ教室に来てまず最初にすることは床に寝転がって大の字になると言う話しをされました。避難所では決して出来ない大の字でした。
そして、震災後、ピアノ教室に戻ってくる子どもたちが少なく、音楽の無力さを感じたと言います。こんな時にピアノを習うだなんて・・・と言う声があったのでしょう。
ピアノ教室の先生とはプレハブのジャズ喫茶「ジョニー」で会いました。かつては陸前高田の駅前にあったジャズ喫茶だそうですが、今は高台のプレハブで周囲の要望を受けて再開しているそうです。しかし「常連でその店を支えてくださった方々はもういません」とのことでした。
そのピアノの先生は8年目にして初めて3.11に陸前高田に来たそうです、僕らと話しをしてくださるために。
そしてお話を聞いた方々が必ず口にした言葉は、「申し訳ない」でした。
「申し訳ない」
聞こえますか?
今回創作している作品は、宮澤賢治の世界観を通して、震災とそして震災後の今と向き合うというものです。
僕らは陸前高田に足を運び、言葉を失いました。
同じ言葉を繰り返しますが、今回創作している作品は、宮澤賢治の世界観を通して、震災とそして震災後の今と向き合うというものです。
僕らがその当事者になることは決してありません。当事者の言葉に僕らの想像力が追いつくことは決してありません。
むしろそれを目標にして作品を作るなど以ての外です。
きっと僕は今こうして文章にしていることで頭の整理や心の整理をしているような気がします。
陸前高田で見た景色、聞こえてきた声は8年経った今でさえ、想像を絶するものでした。
芸術と食べ物が横ならびになったとき、生きるために必要なのは食べ物でしょう。
芸術と屋根ある場所が横ならびになったとき、生きていくために必要なのは雨風凌げる屋根のある場所でしょう。
けれども芸術は生きる糧にはなりうると思うのです。
ピアノ教室に戻ってきた子どもたちは少なかったかもしれません、けど、いずれ音楽に救われる時がくるかもしれない、絵の具に身を委ねられるかもしれない、舞台芸術に希望を見出すかもしれない。
正直、正直、無力さとも向き合いながら、こないだの卒業式で語られた自由の森学園の校長の「痛みの想像力」についての言葉に耳を傾けながら、今週末の本番に向けて作品を作っています。
以下、引用です(全文は:2018年度自由の森学園高等学校卒業式校長の言葉 ):
今日はみなさんの卒業にあたって、小川町の近くの東松山市、都幾川のほとりにある小さな美術館のお話をします。
その美術館は「 原爆の図丸木美術館 」です。
画家の丸木位里さんと丸木俊さんご夫妻が共同で制作した「原爆の図」を展示するために開いた小さな美術館です。一昨年50周年を迎えたそうです。
画家同士の二人が結婚したのは1941年7月、アジア太平洋戦争開戦の半年前でした。その後、戦況がしだいに厳しくなり南浦和に疎開しているとき、広島に新型爆弾が落ちたことを知ります。広島出身の位里さんはすぐに広島に向かい、原爆が投下されてから3日後の8月9日に到着します。やがて俊さんも駆けつけ、二人はしばらくの間広島で過ごしたそうです。
敗戦から3年の1948年、二人は「 原爆を描こう 」と決意しました。それから 34年かけて「 原爆の図 」十五部作を描き上げていくのです。
「 人間の痛みを描く 」というこの原爆の図、どの作品にもたくさんの人間が描かれています。ある作品では焼けて剥けた肌を引きずりさまよっているような人々、炎に焼かれてもだえ苦しむ人々や、多くの屍の山としての人々も描かれています。この「人間の痛み」に向き合い続けた丸木夫妻は、原爆の図だけでなく、南京、水俣、アウシュビッツ、沖縄などの絵を、その生涯をかけて描き続けました。
丸木夫妻が自らの「痛みへの想像力」を広げ深めて描いた作品の前に立つとき、私たち自身も「痛みへの想像力」をもって受けとめようとします。映像や写真、文章とまた違った形で胸に迫ってくるものを感じた人は少なからずいるのではないでしょうか。
この他者の「痛みへの想像力」、今を生きる私たちにとって最も重要な「ちから」の1つだと私は思っています。
丸木美術館で長年学芸員をされている岡村幸宣さんはその著書の中で「痛みへの想像力」について次のように綴っています。
「戦争だけでなく、かたちを変えた暴力は、いつの時代も存在します。公害や原発事故、貧困、差別、偏見…。私たちの社会は、そんな構造的な暴力の上に成り立っていると言えるでしょう。人は誰でも、自分の痛みには敏感になります。けれども他人の痛みを感じることは難しく、遠い国の人の苦しみは、忘れてしまうこともあります。だからこそ、最も弱い立場の人の痛みに、想像力を広げる必要があるのだろう、とも思います。」
現在、日本においても世界においても「自分さえよければいい」「自分の国さえよければいい」とする、利己主義、自国中心主義(自国第一主義)の風潮が広がっていると言っていいでしょう。
これは決して他人事ではありません。
全国の公立小中学校の保護者を対象に調査したところ、「経済的に豊かな家庭の子どもほど、よりよい教育を受けられるのは『当然だ』『やむをえない』と答えた人は62.3%に達した」との報道がありました。6割以上の人がこうした教育格差を容認しているとのことです。
世界を見渡しても、自国第一主義が台頭し、人権や民主主義、国際協調といった言葉が後回しにされているように思います。社会そして世界において「分断」が進んでいると言ってもいいかもしれません。
創立者の遠藤豊さんは生徒を目の前にして「自由の森学園の教育とは、自由と自立への意志を持ち、人間らしい人間として育つことを助ける教育」だと語っていました。
この「人間らしい人間」とは「痛みへの想像力」を持ち続けようとする人だと私は思っています。人間は他者の「痛みへの想像力」をもっているからこそ、人と人が支え合ったり助け合ったりしながら社会をつくってきたのだと思うからです。
丸木美術館の岡村さんはこのようにも綴っています。
「真の現実を覆い隠そうとする『現実』の皮を引き剥がし、一見変わらない光景に潜む取り返しのつかない変化を暴き出す想像力こそ、私たちに必要とされているのかもしれません」
「痛みへの想像力」は「見えないものをみようとする力」「真実を見抜く力」へとつながっていくのだと私も思っています。
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「痛みへの想像力」
岩手のお近くに住んでらっしゃる方、是非とも観にいらしてくださると幸いです。勿論遠方の方も。
この作品を通して「本当の幸い」を見つけるヒントが見つかればと思う次第です。
いわてアートサポートセンタープロデュース
アンソロジー宮澤賢治 イーハトーヴォ発「ジョバンニの切符」
宮澤賢治の世界を旅するような"祈り"と"出発"の演劇作品を東京で活動する演出家・俳優が盛岡に長期滞在し、岩手在住の俳優・スタッフらと作り上げます。
構成:坂田裕一 こむろこうじ 新井浩介 多田純也
脚本:こむろこうじ 新井浩介
演出:大谷賢治郎
出演:坂元貞美 古舘一也 畠山泉 山井真帆 かとうちあき 山村佑理 岩崎野花
【盛岡公演】
平成31年
3月22日(金)19:00
3月23日(土)14:00/19:00
3月24日(日)14:00
※受付開始は開演45分前、開場は開演30分前。
会場:風のスタジオ (盛岡市肴町4-20 永卯ビル3F)
【久慈公演】
平成31年
3月29日(金)19:00
3月30日(土)14:00
※受付開始は開演45分前、開場は開演30分前。
会場:久慈市文化会館(アンバーホール)小ホール
(久慈市川崎町17番1号)
【料金】 全席自由席
前売券 一般2,000円/シニア(65才以上)1,700円/学生1,200円
当日券 一般2,300円/シニア(65才以上)2,000円/学生1,500円
【チケット予約受付フォーム】
盛岡公演
久慈公演
【メール予約】
お名前、電話番号、ご希望日、枚数(一般、シニア、学生)をご記入の上、
こちらまでメールをお送りください。
【チケット取扱い】
いわてアートサポートセンター風のスタジオ/もりおか町家物語館
プラザおでって/カワトク/Cyg art gallery/アンバーホール
【お問合せ】
特定非営利活動法人いわてアートサポートセンター
TEL 019-656-8145
Mail:info@iwate-arts.jp
主 催:特定非営利活動法人いわてアートサポートセンター
助 成:芸術文化振興基金
特別協賛:いわて文化振興プロジェクト(真如苑)
詳細はこちらをご覧ください。↓
http://iwate-arts.jp/?p=3282
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