南相馬と相馬に行ってきた。
東京を夕方に出発し、どしゃ降りの東北道を北上して、蛙が左右からぴょんぴょんと出てくる真っ暗な山道を抜け、夜9時半南相馬に到着した。時間も遅く日曜日だったせいもあり、お店はほとんど開いておらず、唯一開いていたラーメン屋の暖簾をくぐる。
カウンターだけのラーメン屋。カウンターの向こう側で焼酎を飲み交わしてる地元の人。
俺「東京から来ました」
彼「わざわざありがとうございます、良かったらこの餃子食べてよ」
注文したばかりの餃子の皿をこっちにまわす。
ビールで乾杯。
俺「実は今回、絵本とかおもちゃとか子供服をいっぱい持ってきました。」
彼「実は俺、老人ホームを経営してます。みんな痴呆症。みんな子供に帰ってるんです。良かったら、うちにも絵本とかもらえませんか。」
俺「良かったら絵本持って行きがてら、朗読させてもらえませんか?」
彼「是非」
翌日、南相馬のボランティアセンターに一緒に行った大工の友達と朝8時に向かう。
台風が来てたもんだから、屋外の作業はなく割り当てられた仕事は避難所になってる中学校の雨漏りの修繕。
大工冥利。
現地で出会った他のボランティアの方と校内をまわり、雨漏り箇所をまずはチェック。その後、大工の本領発揮(俺も彼のもと20代に大工見習いをしてたもんで)雨漏りを修繕。
午後は校舎の大掃除。
4時にボランティア作業を終え、山の中にある老人ホームに車を走らせる。
絵本をもらってもらい、その中のいくつかの絵本を朗読させてもらう。
ひとつの話を終える度におばあちゃん達拍手。
気持ちが満たされていく。
こっちがどんどん励まされる感覚。
朗読を終え、俺はどうしても沿岸部が見たくて津波にあった現場に車を走らせる。
カメラも用意して。写真を撮るつもりで。
そしてことばを失った。何もない真っ黒な風景と瓦礫の山。死体が見つかったであろう場所の旗の印。
ことばが完全に奪われた。
もちろんカメラのシャッターは切れんかったよ。
日中ボランティアで言った避難所で「ボランティアの人はここの体育館に泊まれるからね」って誘ってもらってたんだけど、津波の場所を見て、一気に自信をなくし、出来ればホテルに泊まってとんでもなくくだらないバラエティ番組をテレビで見たいと思い、ホテルを探す。
どこもかしこも満杯。
仕方なくとりあえずたらふく飲んで気持ちを紛らわせて体育館に。
ただ広い。
着いても寝られないからワインを飲み交わす。
何とか気持ちをごまかして就寝。
11時に眠りにつき、2時に目覚める。
寝られたもんじゃない。
経験出来てよかったなと思いながらも、今ここに避難してる人はこれを約3ヶ月やってるんだなと思い、色々な思考が頭の中をぐるぐると駆け巡る。
結局ほぼ寝ないまま、相馬に向かった。
行政には頼れないからと自主的に物資を集めたりしている神社に足を運ぶ。
相馬中村神社。
野馬追の発信地。
行ってみると馬が沢山。元々いた馬と原発の被害にあった地域で取り残され避難している馬と。
話を伺ってみるとその取り残された馬がいるところに自らまわって、避難させたらしい。
馬の他にも山羊や犬や猫がいる。
猫は誰かが神社の前に置いていったものもあるとか。
避難所でもしくは仮設住宅で飼えなくなったものか。
神社の境内に物資を並べる。
南相馬から新品の長靴を持ってくる方。
馬たちの食べるりんごを持ってくる方。
神社の前の広場では広島のパン屋がサンライズと呼ばれるメロンパンを配っていた。
南相馬から避難してきた馬はそれにちなんでサンライズと名付けられていた。
たれ目でどこか愛嬌のある顔をしていた。
僕らは東京から持ってきたおもちゃや子供服、絵本をひろげた。
「うちの孫に」と持って行ってくれる方々。
「仮設はせまいからなぁ・・・」と持って帰りすぎないようにあれやこれやと比べている方。
でもそうやって人の手から人の手へと運ばれていく。
ありがたい。
「出来れば絵本とか持ってどこかの保育園とかに行かせてもらえないでしょうか」
神主さんの川嶋さんに聞いてみる。
「早速連絡してみましょう」とその場で電話。
30分後には絵本の入った段ボール箱を持って、相馬保育園に。
園長先生の計らいで3歳児から5歳児の園児を講堂に集めて頂き、約40分朗読の時間をもらった。みんな集中して聞いてくれた。
朗読を終えると今度は子供たちが歌を歌ってくれた。
「ありがとうの花」
ありがとうの花が咲くよ
君の町にも ほらいつか
ありがとうの花が咲くよ
みんなが歌ってるよ
参った。
顔があげられなくなって困った。
「こんどはいつくるの?」
園長先生に話を伺うとずっと子供たちは表で遊べていないらしい。
思い切り遊ぶのが彼らのお仕事なのに。
僕らは神社に置いてきてたもう1箱の絵本の段ボールを持ってきてそれを渡した。
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東京に戻って数日後、神社さんからお葉書をいただき、保育園からお写真とメールを頂いた。
「うんちくん」という絵本を朗読したのだが、その話を聞いてた3歳の子が次の日から一人でトイレに行けるようになったとのこと。
そして、近くにある姉妹園にあたる保育園にも是非来てほしいと。
絵本の力はすごい。
また行きます。
絵本も集めよう。